ミックスボイスとは?研究では「共通の合わせ方」は見つかっていません

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こんにちは、兵庫県姫路市のボイトレ教室「music salon”Moon²”」です。

ミックスボイスについて知りたい方に向けた記事です。

「ミックスボイスがどういうものか、いまいちピンと来ない」
「地声と裏声を混ぜようとしても、うまくいかない」
「ネットの練習法を試しても、自分には効かない気がする」

そんな方に向けて、ミックスボイスに近い発声について研究で分かっていることと、レッスンでの具体的な指導内容をお伝えします。

「地声と裏声が混ざった声」と言われていますが、本当でしょうか

ミックスボイスは、よく「地声と裏声が混ざった声」と説明されます。声帯が、地声と裏声の中間のような状態で震えているイメージです。

これに近い発声を測った研究では、これとは違う説明がされています。ただし研究が扱っているのはフランス語圏で voix mixte と呼ばれる発声で、日本語の「ミックスボイス」とまったく同じものを指しているかどうかは、研究そのものでは確認されていません。その前提でお読みください。

研究では何が分かっているか

プロ歌手2名を測ったケーススタディ

2007年に発表された研究があります。voix mixte を意識的に使い分けられるプロの歌手2名(カウンターテナー1名、ソプラノ1名)を対象に、地声・裏声・voix mixte のそれぞれで同じ高さの音を歌ってもらい、声帯の動きと音響を測定したものです。

この研究では、声帯が中間の状態で震えているのではなく、地声側の仕組みか、裏声側の仕組みか、どちらか一方の中で作られていたと報告されています。実体は、主に響き(共鳴)の調整によるものだとされています(Castellengo, Lamesch, & Henrich, 2007)。

音量にも違いがありました。同じ高さの音でも、地声側の仕組みのほうが裏声側より8〜10dB大きく出ます。そのため、地声側でそれらしく聴かせるには音量を落とし、裏声側でそれらしく聴かせるには音量を上げる、という調整が観察されました。聴き手には区別がつかないところまで揃えられていましたが、ビブラートの揺れ方だけは差が残ったということです。

この研究はプロ2名を対象にしたケーススタディで、学術誌の査読を受けた論文ではなく国際会議での発表です。この1件だけで「声の正体が分かった」とは言えません。 対象もクラシックの歌手2名だけなので、ポップスやカラオケでの発声にそのまま当てはまるかも分かりません。

オペラ歌手7名で確認された「戦略は人による」という発見

もう一つ、2014年に発表された、査読を受けた論文があります。プロまたはセミプロの男性オペラ歌手7名を対象に、同じ音・同じ母音を地声側と裏声側で歌ってもらい、声道の共鳴周波数を測定しています(測定回数は合計741回)。

これはミックスボイスそのものを扱った研究ではなく、地声と裏声を切り替えたときに響きがどう変わるかを調べたものです。

  • 同じ高さ・同じ母音でも、裏声側は地声側より共鳴の周波数が低くなっていました(低いほうの共鳴で目安として約65Hz低く、その次の共鳴で約90Hz低い、という差です)
  • もっとも重要な発見は、この共鳴の合わせ方(チューニングの仕方)が歌手によってかなりばらつき、全員に共通する体系的な戦略の証拠は得られなかった、という点です
  • ただし、共鳴の変化と、声帯の状態や喉頭の高さの変化とのあいだの関係は弱く、著者ら自身も「声区の切り替えに伴う調音の変化が、共鳴にどれだけ影響しているかは分かっていない」と述べています

つまり、声区が変わると響きも一緒に変わることは確認されていますが、両者がどうつながっているかは、まだよく分かっていないということです。対象は男性のオペラ歌手7名のみで、女性やポップス・カラオケの発声で同じかどうかも分かりません(Henrich Bernardoni, Smith, & Wolfe, 2014)。

この2つの研究の限界

  • どちらも対象人数が少なく(2名・7名)、クラシック・オペラの発声を対象にした研究です
  • ポップスやカラオケでの発声、女性の声について、同じ結果になるかは検証されていません
  • 指導法の効果を検証した研究ではありません
  • 1つ目の研究(2007年)は査読を受けていない会議発表で、単独で強い結論の根拠にはできません
  • 2つ目の研究(2014年)は、声区が変わると共鳴が変わることは確認していますが、「共鳴を変えれば声区が変わる」かどうかまでは示していません

つまり、研究では「共通の合わせ方」は見つかっていません

2007年の研究からは、声が中間の状態で作られているのではなく、響きの調整によって近づけられている可能性がある、ということが言えます(ただしプロ2名のみ)。2014年の研究からは、声区が変わると響きも一緒に変わるが、その合わせ方は歌手によってばらばらで、全員に共通するやり方の証拠は見つからなかった、ということが言えます(男性オペラ歌手7名のみ)。

これは「この練習をすればミックスボイスが出せます」という一律のやり方が、なぜ人によって効いたり効かなかったりするのかを考えるヒントになります。

レッスンでは、ミックスボイスをこう扱っています

当教室では、声帯振動そのものを「ミックス」とは呼んでいません。地声の声帯振動を「モーダル」、裏声の声帯振動を「ファルセット」と呼び、その間に近い状態に近づけることを目標にしつつ、鼻腔や口腔の共鳴、口の中の形を調整することで、聴感的にミックスボイスに近づけるという考え方でレッスンをしています。声帯側と共鳴側は連動しているものですが、指導としては次の2つに分けて扱っています。

  • 声帯側:モーダルとファルセットの、間に近い状態に寄せる
  • 共鳴側:鼻腔・口腔の共鳴や口の中の形を調整して、聴こえ方を近づける

つまずくのは、共鳴側よりも声帯側であることが多いです。共鳴は一箇所をつかむところまでは比較的早く進む生徒様が多い一方、複数の共鳴を組み合わせる段階で苦戦する人も多いです。

母音・子音の組み合わせで「逆方向」に寄せる

具体的な調整の一つとして、母音と子音の組み合わせを使って、いまの状態と反対方向に寄せる練習をしています。たとえば、地声寄りに寄せたいときは「Gu」「Ga」のようなG子音を、裏声寄りに寄せたいときは「We」「Fi」のような音を使う、という具合です。

この「いまの偏りを聴いて、逆方向の材料を渡す」というやり方は、うまくいかないこともよくあります。実際には次のような対応をしています。

  • 効いた場合:そのまま練習を進めます
  • 効かなかった場合:声帯側だけ動かしても、共鳴が伴っていなければ発声には直結しません。その練習で良くなった部分があれば残しつつ、別の方法に切り替えます
  • 寄りすぎた場合:さらに逆方向の調整を加えて、真ん中に寄せ直します

一発で正解の形に当てるのではなく、聴きながら調整を繰り返していくという進め方です。

「できた」の判断基準

純粋な地声からファルセットに移っていく過程の音域では、聴感的に近づいたかどうかを次の3点で判断しています。

  1. 喉が締まった感じのない発声であること
  2. 共鳴が鼻腔・頭部側にある程度寄っていて、重たい発声になっていないこと
  3. 前後の地声・ヘッド(頭部の共鳴を効かせた声)・ファルセットなどとの繋ぎ目に、段差を感じないこと

この3点は、当教室でのレッスンにおける判断基準であり、研究で検証されたものではありません。

結局どうすればいいか

  • 「地声と裏声を混ぜる」というイメージにとらわれすぎなくて大丈夫です。少なくとも、2007年の研究(プロ2名のケーススタディ)からは、聴こえ方の調整という側面が大きい可能性があることが示唆されています
  • ネットで見た練習法が自分に効かなくても、才能がないとは限りません。2014年の研究でも、歌手ごとに共鳴の合わせ方はばらばらで、全員に共通するやり方の証拠は見つかっていません
  • 声帯側と共鳴側は連動していますが、練習として手を入れる先を分けて考えると、いまどこでつまずいているかが整理しやすくなります
  • 地声側のほうが同じ高さでも大きく出やすいので、地声寄りの声を落ち着かせる、裏声寄りの声を少し張る、という音量の調整が一つの目安になります(ただしプロ2名を対象にした研究の所見です)

さいごに

ミックスボイスは、検索する人がとても多いテーマですが、「これをすれば出せます」と一律に語れるほど、研究でも現場でも単純なものではないようです。研究の側でも、現場の指導でも、人によって調整の仕方が違うという点は共通しています。

自分がどこでつまずいているのか分からない、という方は、体験レッスンで実際の声を聴いてもらうのも一つの方法です。

体験レッスン(60分4,400円・税込)の申込みはこちら

※声が出しにくい、喉に痛みや違和感がある、声のかすれが続くといった状態のときは、自己判断で練習を続けず、耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。本記事は医療的な診断や治療、予防を目的としたものではありません。

参考文献

Castellengo, M., Lamesch, S., & Henrich, N. (2007). Vocal registers and laryngeal mechanisms, a case study: the French “voix mixte”. Proceedings of the 9th International Congress on Acoustics (ICA), Madrid, September 2-7, 2007.

Henrich Bernardoni, N., Smith, J., & Wolfe, J. (2014). Vocal tract resonances in singing: Variation with laryngeal mechanism for male operatic singers in chest and falsetto registers. The Journal of the Acoustical Society of America, 135(1), 491-501. https://doi.org/10.1121/1.4836255

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