歌う前のウォームアップは意味がある?研究から見る声の準備とケア

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こんにちは、兵庫県姫路市のボイトレ教室「music salon”Moon²”」です。

カラオケや練習の前に、声をどれくらい準備すればいいのか迷っている方に向けた記事です。

「歌う前にウォームアップってした方がいいの?」
「ウォームアップしても、声が軽くなった感じがしない」
「歌った後の声の疲れは、どのくらいで戻るものなの?」

そんな方に向けて、声の準備とケアについて研究で分かっていることを整理してお伝えします。

「ウォームアップすれば声が出しやすくなる」と言われていますが、本当でしょうか

歌う前にウォームアップをすると、声を温めて出しやすくなる。多くの方がそう思っていると思います。

ただ、「やった直後に声が軽くなる」かというと、研究ではそう単純ではないことが分かっています。

研究では何が分かっているか

歌の訓練を受けていない健常な成人26名(18〜30歳、平均22.6歳)を対象にした2023年の研究があります。参加者を2グループに分け、一方には5分間の音読を、もう一方には5分間、ストローを使った発声練習(半閉鎖声道エクササイズ)をしてもらいました。

そのうえで「今の発声にどれくらい努力感があるか」を、0(努力なし)〜10(最大の努力)で自己申告してもらいました。

結果は、当初の予想(ウォームアップで努力感が下がる)とは逆でした。

  • ウォームアップ直後、両グループとも発声の努力感は統計的に意味のある形で上がりました。 数値としては、もともとの平均が10段階中1.5前後というごくわずかな努力の範囲内で、ウォームアップ直後は2.1〜2.5前後まで動いています。大きな変化ではありませんが、下がる方向ではなく上がる方向でした
  • 5分間黙っていると、努力感はもとの水準に戻りました。ただしこの「戻り」が統計的にはっきり確認されたのは、ストロー発声のグループだけです
  • 主観的な努力感については、音読とストロー発声のあいだに差は出ていません

研究チームは、この上昇について「声への自己注意が高まったことの反映かもしれない」と述べています(Whitling et al., 2023)。

この研究の限界

大事な注意点がいくつかあります。

  • 「ウォームアップをしない場合」との比較がありません。 両グループともウォームアップをしているので、「した人としなかった人」を比べた研究ではありません
  • 測っているのは本人の感覚だけです。 声質や声帯の状態そのものは測っていません
  • 対象は歌の訓練を受けていない健常な成人26名です。 プロの歌手や、声にトラブルのある方に当てはまるかは分かりません
  • 1回・20分程度の観察で、毎日続けたらどうなるかは検証していません

つまりこの研究から言えるのは、「ウォームアップ直後に声が軽くなったと感じなくても、それは失敗ではない」ということまでです。「ウォームアップは意味がない」という結論ではありません。

声の疲れとケアについて、研究で分かっていること

声の疲れは、どのくらいで戻るのか

米国の教員72名を対象にした2009年の研究があります。2時間の音読という声の負荷をかけたあと、本人の申告(発声の努力感・小さい声の出しにくさ・喉の不快感)で回復を3日間追跡しています。

負荷後4〜6時間で約90%、12〜18時間でほぼ完全に、もとの水準に戻ったという報告があります。

ただしこれも、本人の感覚を聞いたものであって、声帯そのものを診た結果ではありません。 対象も歌手ではなく教員で、2時間の音読という条件です。歌のレッスンやカラオケでそのまま同じ数字になるとは言えません(Hunter & Titze, 2009)。

声のかすれや痛みが続く場合は、自己判断で様子を見ず、耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。

「声のケアで予防できる」と言えるのか

「声の衛生(発声に影響する生活上の注意)を教育すれば、声のトラブルを防げる」という考え方があります。これについて、2025年に発表されたメタ分析があります。声の不調を訴えていない学校の教員を対象にした研究26件を対象に組み入れ、そのうち12件の結果をまとめて解析したものです。

対象は声の不調を訴えていない学校の教員です。発声訓練や声の衛生指導を行った群と、行わなかった群を比べた結果、声の障害感や発声持続時間などの指標で、効果があったと結論づけられるだけの結果は得られなかったと報告されています。もとになった研究のうち、バイアスリスクが低いと判定されたものはひとつもありませんでした(Ramos et al., 2025)。

これは「効果がない」と証明されたわけではありません。元になった研究の質が一様に担保されておらず、結論を出せなかった、という意味です。それでも、「◯◯をすれば声のトラブルを防げます」と言い切っている情報を見かけたときは、少し慎重に見てよいという材料にはなると思います。

<p><small>※本記事で紹介した研究は、いずれも歌手ではなく健常な成人や教員を対象にしたものです。声のトラブルの予防や治療を目的としたものではなく、効果を保証するものでもありません。</small></p>

レッスンではどうしているか

当教室では、カラオケや自主練習で声を枯らして来る生徒様は、実はそれほど多くありません。

声のことでお話しするときは、飲酒後に歌うことのリスクや、練習のしすぎが良くない方向に働くこと、その日にできる緩和法をお伝えしています。

結局どうすればいいか

ここまでの内容から、今日から意識できることをまとめます。

  • ウォームアップの直後に声が軽くならなくても、気にしすぎなくて大丈夫です
  • ウォームアップと本番のあいだに、少し間を置いてみるのも一つの方法です(この記事の研究が直接推奨したことではありませんが、努力感が時間とともに落ち着いたという結果からの一つの目安です)
  • 声の疲れについては、教員を対象にした研究で数時間から半日程度での回復が報告されています。歌の場合にそのまま当てはまるかは分かっていないので、目安として捉えてください
  • 「これをすれば声のトラブルを防げる」と断言する情報は、根拠を確かめてみてください

さいごに

ウォームアップも声のケアも、「絶対にこうすべき」と言い切れるほど研究が揃っている分野ではありません。だからこそ、ご自身の感覚と、レッスンでの様子の両方を見ながら、無理のない形を一緒に探していけたらと思います。

気になることがあれば、体験レッスンでもお気軽にご相談ください。

※声が出しにくい、喉に痛みや違和感がある、声のかすれが続くといった状態のときは、自己判断で練習を続けず、耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。本記事は医療的な診断や治療、予防を目的としたものではありません。

参考文献:
Whitling, S., Wan, Q., Berardi, M. L., & Hunter, E. J. (2023). Effects of Warm-Up Exercises on Self-assessed Vocal Effort. Logopedics Phoniatrics Vocology, 48(4), 172–179. https://doi.org/10.1080/14015439.2022.2075459
Hunter, E. J., & Titze, I. R. (2009). Quantifying vocal fatigue recovery: dynamic vocal recovery trajectories after a vocal loading exercise. Annals of Otology, Rhinology & Laryngology, 118(6), 449–460. https://doi.org/10.1177/000348940911800608
Ramos, L. A., Ribeiro, C. J. S., Brasil, C. C. P., & Gama, A. C. C. (2025). The Effectiveness of Vocal Health Programs in the Prevention of Voice Disorders in Teachers: A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of Voice, 39(2), 564.e1–564.e21. https://doi.org/10.1016/j.jvoice.2022.09.017

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