【ボイトレ】毎日5分と週末3時間、どっちが伸びる?研究を調べたら「答えがない」ことが分かりました
こんにちは、兵庫県姫路市のボイトレ教室「music salon”Moon²”」です。
この記事は、歌の練習を「どれくらいの頻度でやればいいのか」で迷っている方に向けて書いています。
「毎日ちょっとずつがいいのか、休みの日にまとめてやるのがいいのか分からない」
「平日は時間が取れないので、毎日練習なんて無理」
「毎日5分でも続けたほうがいい、と書いてあるのを見たけれど、本当なのだろうか」
そんな方に向けて、【歌の練習頻度について、研究で分かっていること・分かっていないこと】をお伝えしていきたいと思います。
先に、この記事の結論を書いておきます。歌の練習頻度を直接比べた研究は、今回私たちが探した範囲では見つかりませんでした。ネットで断言されている「毎日15分が正解」という話には、少なくとも私たちが確認できた限り、出典が付いていません。ここから先は、その「分かっていない」を出発点にした話です。
「毎日コツコツが一番」と言われますが
歌の練習について検索すると、だいたい同じことが書いてあります。
「週に1回2時間より、毎日15分のほうが身につく」
「歌は筋肉なので、毎日触っていないと戻ってしまう」
「少しでもいいから毎日声を出しましょう」
私たちも同じような書き方をしてきた側なので、これを他所の話として書くつもりはありません。ただ、今回この記事を書くにあたって出典を探したところ、こうした主張の根拠にあたる文献にたどり着けませんでした。書いているのはボイストレーナーのブログや音楽教室のサイトで、その多くは根拠を示していません。
つまり「みんなが言っているから正しい」という状態です。歌の練習は、実はそこまで調べられていない領域なのだと思います。
実は、歌の練習頻度を比べた研究は見つかりません
今回、英語と日本語の両方で、練習の頻度や配分を比べた研究を探しました。
結果として、歌唱を課題にして「毎日短時間」と「まとめて長時間」を直接比べた実験研究には、たどり着けませんでした。
念のために書いておくと、これは「そんな研究は存在しない」という意味ではありません。私たちが探して見つけられなかった、というだけです。
ただ、少なくとも「毎日15分が良い」と書くために引ける歌唱の研究を、私たちは持っていません。だとすれば、そこは「分かっていない」と書くのが誠実だと考えました。
では、まったく手がかりがないのかというと、そうでもありません。歌ではない領域には、練習の配分を比べた研究があります。以下はすべて歌以外の研究です。そこを頭に置いたまま読み進めてください。
隣接領域でも、結果は割れています
約9,000人分をまとめた分析:課題が複雑になると差が消えた
DonovanとRadosevichという2人の研究者が1999年に発表した、63の研究・のべ約8,980人分のデータをまとめた分析があります。練習を続けて行う条件(集中練習)と、間隔をあけて行う条件(分散練習)を比べたものです。
全体としては、間隔をあけたほうが成績が良いという傾向が確認されています(効果量 d = 0.46)。ここだけ取り出すと「やっぱり分けたほうがいい」と読めます。
ところが、同じ分析にはこう書かれています。
- 課題を性質ごとに4つのグループに分けると、単純な運動課題では大きな差が出た一方、複雑さが高い2つのグループでは統計的に意味のある差が出なかった
- 課題の複雑さの評定と効果量には負の相関があった(r = −.25)。つまり、複雑な課題ほど差が小さくなる
- 間隔は長いほど良い、という結果ではなかった。 1分未満の間隔がいちばん効果量が大きく、1日以上あけた条件がいちばん小さかった(d = 0.16)
- 方法論的に厳密でない研究ほど、効果が大きく出ていた
なお d = 0.46 は「46%良くなる」という意味ではありません。差の大きさを表す指標で、割合ではないので、そこは誤読しないでください。
この分析に含まれている課題は、回転する的を追いかける装置の操作、単語のペアの暗記、ワープロ入力などです。音楽の課題はほとんど含まれておらず、歌はありません。 歌がどのグループに入るかも、この研究では調べられていません。
ピアノ初心者100名:間隔を変えても差が出なかった
2017年に発表された、カナダの大学の心理学の授業を受けている学生100名(うち94名はピアノ未経験)を対象にした実験があります。5分の練習を2回行い、その間の間隔を0分・1分・5分・10分・15分の5条件に分けました。
結果は、打鍵の正確さ・タイミングの安定性・強さの安定性のどれにも、間隔による差が出ませんでした。 著者らは「複雑な運動技能では、間隔をあける効果が常に現れるとは限らない」と結論づけています。
ただし、ここは大事なところです。この実験は間隔が最長でも15分、最終テストも5分後という設定でした。著者自身が「忘れる余地がほとんどなかったせいかもしれない」と述べています。つまりこの研究は、日をまたぐ練習の配分については何も調べていません。 「練習を分けても意味がない」という話ではないので、そこは混同しないでください。
音楽家29名:24時間あけた群だけ正確さが伸びたという報告
2012年に発表された研究で、ピアノを専門としない音楽家29名に、鍵盤で9音の並びを覚えて弾いてもらったものがあります。練習の間隔を5分・6時間・24時間の3条件に分けたところ、2回目の練習で正確さが有意に向上したのは24時間あけた群だけだった、という報告があります。著者は、睡眠を挟んだ記憶の固定化が関係している可能性がある、と慎重に述べています。
この研究については、私たちは抄録(要約)しか読めていません。全文が有料のためです。ですので「こういう報告がある」以上のことは書けません。また対象は音楽経験のある人で、課題は9音の鍵盤の並びです。歌でも、曲を通して歌う話でもありません。
ここまでの3つは、方向が揃っていません。1つ目は「間隔は長いほど良いわけではない」、2つ目は「短い間隔では差が出なかった」、3つ目は「24時間あけた群で伸びた」。研究者も課題も違うので単純な比較はできませんが、少なくとも「毎日が正解」と言い切れる状態ではありません。
総量を揃えると、差は出ませんでした
もう1本、私たちの疑問にいちばん形が近い研究があります。2016年にデンマークのオーフス大学のグループが発表した、気管支鏡というカメラ操作の手技を、シミュレータで訓練した研究です。歌でも音楽でもなく、医学教育の研究です。
呼吸器科の研修医20名を、くじ引きで2つのグループに分けました。
- A群(10名):3回の訓練を、同じ1日のうちにまとめて行う
- B群(10名):3回の訓練を、3週間かけて週1回ずつ行う
練習の総量は同じで、配り方だけが違います。 結果は、測ったどの指標でもグループ間に差が出ませんでした。両群とも訓練前より上達し、4週間後の保持テストでも、どちらのグループにも意味のある低下は見られませんでした。
もちろん限界もあります。1グループ10名という小規模な研究で、著者自身が限界として挙げています。差が出なかったことは「差がない」ことの証明にはなりません。対象は医師で、動機づけも前提知識も趣味の学習者とはかなり違います。何より、気管支鏡の手技であって歌ではありません。
それでも私たちがこの研究を面白いと思ったのは、結果よりも設計のほうです。総練習量を揃えたうえで、配り方だけを変えている。 ここが、後半の話につながります。
レッスンで見ていると
ここからは、Moon²のレッスンで感じていることです。
毎日少しずつ練習してくる生徒様と、レッスンの前後にまとめて練習してくる生徒様とで、伸び方に違いを感じるか。当教室でこの点を確認したところ、返ってきた答えはこうでした。
「どちらとも言えません。ただ、その『少し』が1日5分なのであれば、レッスンの前後に3〜5時間練習する人には負けるでしょう」
これは頻度の話をしているようで、実は量の話をしています。1日5分を7日続ければ週35分、レッスン前後に3〜5時間なら週3〜5時間。7倍前後の開きがあります。この差を、配り方で埋めるのは難しいだろう、ということです。
ここで、さきほどの医学教育の研究を思い出してください。あの研究は総練習量を揃えたうえで配り方を比べていました。差が出なかったのは、「同じ量なら配り方は大きく響かなかった」という話です。
一方、レッスンの現場で問題になるのは、そもそも総量が違う場合です。週35分の人と週3〜5時間の人を、同じ土俵に乗せて「毎日か週末か」と論じることはできません。前提が違います。
つまり、研究と現場は食い違っているのではなく、別のことを比べているのだと思います。研究が答えているのは「同じ量をどう配るか」で、現場で先に効いてくるのは「そもそもどれだけやっているか」。この整理は論文に書かれていることではなく、私たちの読み方ですが、この2つを分けずに話すから「毎日が正解」「まとめてが正解」という不毛な言い合いになるのではないでしょうか。
そしてもう1つ、印象的だった答えがあります。練習量は多いのに伸び悩んでいる方に共通するのは、練習に慣れてきて改善点に目がいかなくなっていることだそうです。練習の効率が落ちていることに、本人が気づけない。
これへの対応として挙がったのが、現状の練習方法をモニタリングして、改善策を考えるという手順でした。本人の申告ではなく、実際にどう練習しているかを外から見る、ということです。裏を返せば、練習の質は自分では見えにくい、ということでもあります。
結局どうすればいいか
以上を踏まえて、今日からできることを3つに絞ります。なお、上達の速さや変化の感じ方には個人差があります。
1. まず「週あたりの合計時間」を数える
毎日か週末かを考える前に、1週間で何分声を出しているかを数えてみてください。手帳でもスマホのメモでも構いません。
配分の話は、総量が見えてからです。週35分と週3時間では、そもそも同じ土俵の議論になっていません。
2. 配分は、続けられるほうを選ぶ
「毎日が正解」と言える研究の裏づけを、私たちは持っていません。であれば、生活に合っていて、実際に続けられるほうを選ぶのが合理的だと思います。
平日に時間が取れない方が無理に毎日5分をこなすより、週末に1時間ずつ2回取れるなら、そちらのほうが合計は増えます。逆に、まとまった時間が取れない方は、短い練習を積み上げるしかありません。どちらも間違いではありません。
なお、1回にまとめて長く歌う場合は、声の使いすぎに気をつけてください。声のかすれや違和感が続くときは、練習を控えて耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。
3. 同じ練習を3週間続けたら、一度見てもらう
いちばん見落とされやすいのが、ここだと思います。頻度を気にしている方は多いのですが、中身が惰性になっていることには気づきにくいからです。
自分では「ちゃんとやっている」つもりでも、意識が向いていない部分は自分では見つけられません。レッスンに通っている方は、練習の内容そのものを講師に見てもらってください。「何を、どういう順番で、どこに気をつけてやっているか」を話すだけでも、抜けている部分が見つかることがあります。
さいごに
歌の練習頻度について、研究で分かっていることは思ったより少ない、というのが今回の結論です。
- 歌唱で練習頻度を直接比べた研究には、今回たどり着けませんでした
- 隣接する領域の研究でも、結果は揃っていません
- 総練習量を揃えて配分だけを変えた研究(医学の手技訓練)では、差が出ませんでした
- レッスンの現場で先に効いてくるのは、配分よりも総量だと感じています
「毎日やらないと意味がない」と思い込んで、できない自分を責めてしまう方は少なくありません。少なくとも、それを裏づける歌の研究を私たちは見つけられませんでした。まずは1週間の合計時間を数えるところから始めてみてください。
Moon²では、練習の内容そのものを一緒に見直すレッスンも行っています。「量はやっているのに伸びている気がしない」という方は、体験レッスンでその練習方法を聞かせてください。
参考文献
- Donovan, J. J., & Radosevich, D. J. (1999). A meta-analytic review of the distribution of practice effect: Now you see it, now you don’t. Journal of Applied Psychology, 84(5), 795-805. https://doi.org/10.1037/0021-9010.84.5.795
- Wiseheart, M., D’Souza, A. A., & Chae, J. (2017). Lack of spacing effects during piano learning. PLoS ONE, 12(8), e0182986. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0182986
- Simmons, A. L. (2012). Distributed practice and procedural memory consolidation in musicians’ skill learning. Journal of Research in Music Education, 59(4), 357-368. https://doi.org/10.1177/0022429411424798
- Bjerrum, A. S., Eika, B., Charles, P., & Hilberg, O. (2016). Distributed practice. The more the merrier? A randomised bronchoscopy simulation study. Medical Education Online, 21, 30517. https://doi.org/10.3402/meo.v21.30517
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