ギターの練習量を増やせば上達する?研究から見る「量と質」
こんにちは、兵庫県姫路市の音楽教室「music salon”Moon²”」です。
ギターの練習量について悩んでいる方に向けた記事です。
「毎日それなりに練習しているのに、上達を感じられない」
「自分には才能がないのかもしれないと感じる」
「とにかく練習量をこなせば、いつか伸びると言われるけれど本当だろうか」
そんな方に向けて、練習量と上達の関係について研究で分かっていることと、レッスンで実際に行っている練習の組み方をお伝えします。
ギターの練習量と上達について、研究で分かっていること
「練習した分だけ上手くなる」というのは、多くの人が信じている考え方だと思います。研究でもこの関係は調べられていますが、内容を見ると単純な話ではありません。
13研究・788人をまとめた分析
2014年に発表された、楽器演奏を対象にした13の研究・のべ788人分のデータをまとめた分析があります(収録された研究は1992〜2012年発表で、累積練習が1年以上あるものに限定されています)。対象はピアノを中心とした器楽演奏で、他は弦楽器の研究です。ギターを対象にした研究ではありません。 学齢期の子どもから大学生・プロ演奏家まで含まれていますが、対象の多くは音楽を専攻する学生・演奏家で、趣味で週1回レッスンに通うような成人初心者を対象にしたものではありません。
積み重ねた練習量と、客観的に測定された演奏の到達度のあいだには、強い相関(r = 0.61)が報告されています。 これはCohenの基準で「大きい」効果とされる水準です。
ただし、大事な注意点が3つあります。
- 相関であって因果ではありません。 「練習したから上手くなった」のか「もともと伸びやすい人がより多く練習するようになった」のかを、この分析だけでは区別できません
- 著者ら自身が「練習量が上達の36%を説明する」という読み方を明確に否定しています。 相関係数を二乗して割合として語ることはできません
- この分析に、歌を対象にした研究は1本も含まれていません
同じ年に、もう一つの見方をする分析も出ている
同じ2014年に、同じテーマで別のメタ分析も発表されています(Macnamara, Hambrick, & Oswald, 2014)。こちらは抄録によると、練習の重要性は世間で過大に語られている、という方向の結論です。この研究については抄録までしか確認できておらず、その後正誤表が出ていることも分かっていますが、正誤表の内容までは確認できていません。そのため、記事では具体的な数値までは引用できません。ただ、同じ時期に、練習量の効き方について異なる見方をする分析が複数出ている、ということは言えます。
「1万時間の法則」を検証した研究
バイオリン専攻生39名の再現実験
もう一つ、練習量についてよく知られた話に「1万時間練習すれば一流になれる」という「1万時間の法則」があります。この元になった1993年の研究を、2019年に再現した実験があります(先ほど紹介した「もう一つの見方をする分析」と、この論文の筆頭著者は同じ人物です。共著者は別です)。
バイオリンを専攻する学生39名を、教員の推薦で「最上位群」「中位群」「下位群」(各13名)の3グループに分け、18歳までに積み重ねた練習時間を構造化面接で振り返って調べました。最上位群と中位群は同じ音楽大学(Cleveland Institute of Music)の学生、下位群は別の大学の音楽科(Case Western Reserve University)の学生で、2つの学校から集めています。練習時間は本人の記憶による推定であることにも注意が必要です。
- 最上位群の平均練習時間は8,224時間、中位群は9,844時間、下位群は4,558時間でした。最上位群と中位群のあいだに、統計的に意味のある差はありませんでした。むしろ最上位群のほうが、平均練習時間は少なかったのです
- 一方、中位群と下位群のあいだには、はっきりとした差がありました
- 3グループ全体で見ると、練習量が説明したのは上達の差の26%でした
研究チームの結論は「累積した練習量が技能レベルに対応するという中核的な考え方は、再現されませんでした」というものです(Macnamara & Maitra, 2019)。
大事な注意点があります。
- 対象は音楽大学のバイオリン専攻生39名のみです。 趣味で楽器を習う方や、成人の初心者とは対象がまったく違います。ギターについても歌についても、この研究からは何も言えません
- サンプルが小さく、研究チーム自身も慎重な解釈を求めています
- 「練習は無意味」という結果ではありません。 中位群と下位群のあいだには、はっきりと差が出ています。差が消えたのは、あくまで上位層どうしの比較でのことです
「独学のほうがいい」という意味ではない
この研究には、もう一つ気になる結果があります。参加者自身の評価では、教師が設計した練習は、自分ひとりで行う練習より「上達への関連度が低い」と感じられていました。
ここで注意が必要です。これは参加者本人の主観的な評価であって、実際にどちらの練習が上達につながったかを比較したものではありません。 ですので、この結果を「レッスンより独学のほうがよい」という根拠として使うことはできません。
※ここで紹介した研究は、対象・楽器・年代がそれぞれ異なり、単純に比較できるものではありません。ギターを対象にした研究ではなく、趣味で楽器を習う成人にそのまま当てはまるかも検証されていません。
レッスンでは、こう練習を組んでいます
テンポは10ずつ上げます
研究からは「量だけでは説明しきれない部分がある」ということまでしか言えません。では中身とは何か。当教室のレッスン記録から、一つ具体例をご紹介します。
テンポを上げていく練習で、講師が指導しているのは次のような組み方です。
- テンポ80で弾けるようになったら、1や2ずつではなく、10ずつテンポを上げていきます
- 80から始めて160まで到達したら、また80に戻ります
- そこから音符を一段階細かくして(4分音符→8分音符→16分音符)、同じサイクルを繰り返します
あえて上げ幅を粗くする理由
少しずつ上げたほうが良いと思われがちですが、この指導では逆に、あえて上げ幅を粗くするのがポイントです。理由は、少しずつ上げると「どこで弾けなくなったか」という境界がぼやけてしまうためです。上げ幅を粗くすることで、崩れる場所がはっきり見えます。
これは当教室の現場での指導であり、生徒1名の指導記録から抽出したものです。研究で検証されたものではなく、誰にでも同じように当てはまるとは限りませんが、「量をこなす」ことと「意図を持って練習する」ことの違いが分かりやすい例だと思います。
結局どうすればいいか
才能のせいだと決めつけない
「たくさん練習しているのに伸びない」と感じても、才能がないと決めつける必要はありません。研究からも、そこまでは言えません。
伸び悩みを感じたら、量より中身に目を向ける
ある程度続けても伸び悩みを感じる場合は、量よりも練習の中身に目を向けてみる価値があります。何を、どんな順番で、どこに注意して練習しているかは、自分では気づきにくい部分です。テンポの上げ方一つでも、意図を持って組み立てられているかどうかで違いが出ることがあります。
上達の速さには個人差があります。ここで紹介した内容がそのまま誰にでも当てはまるとは限りません。
さいごに
「練習量さえこなせば必ず伸びる」と言い切れるほど、研究の側もはっきりした答えを持っているわけではないようです。
たくさん練習しているのに手応えがない、という方は、練習の中身を一度見直してみるのも一つの方法だと思います。
Moon²ではギターのレッスンも行っています。練習の仕方に迷っている方は、体験レッスンでご相談ください。
参考文献
Platz, F., Kopiez, R., Lehmann, A. C., & Wolf, A. (2014). The influence of deliberate practice on musical achievement: a meta-analysis. Frontiers in Psychology, 5, 646. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2014.00646
Macnamara, B. N., & Maitra, M. (2019). The role of deliberate practice in expert performance: revisiting Ericsson, Krampe & Tesch-Römer (1993). Royal Society Open Science, 6(8), 190327. https://doi.org/10.1098/rsos.190327
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