ピアノの練習は毎日じゃないとダメ?研究から見る「間隔」の話

Blog, 音楽情報

こんにちは、兵庫県姫路市の音楽教室「music salon”Moon²”」です。

ピアノの練習時間の取り方で迷っている方に向けた記事です。

「毎日少しでも鍵盤に触ったほうがいいと聞くけれど、平日はまとまった時間が取れない」
「週末にまとめて2〜3時間練習しているけれど、これでは伸びないのだろうか」
「『継続は力なり』とは言うけれど、具体的にどう配分すればいいのか分からない」

そんな方に向けて、ピアノの練習頻度について、音楽やそれに近い課題を使った研究で分かっていることをお伝えします。数か月にわたる日常の練習で「毎日」と「週末だけ」を比べた研究は見当たりませんでした。 近いものとしてSimmons(2012)の実験がありますが、これは1回の実験セッション内で最大24時間の間隔を比べたもので、数日規模の話です。「何週間も毎日続けた場合」とは前提が違います。それを踏まえたうえで、近い設計の研究を4つ紹介します。

まず、いちばん設計が近い研究から

2016年、デンマークのオーフス大学のグループが発表した研究があります。ピアノでも音楽でもなく、気管支鏡というカメラ操作の医療手技をシミュレータで訓練した研究です。それでも紹介する理由は、この記事の問いにいちばん近い形で組まれているからです。

呼吸器科の研修医20名をくじ引きで2グループに分けました。

  • A群(10名):3回の訓練を、コーヒー休憩や昼休みを挟みながら同じ1日のうちに行う
  • B群(10名):3回の訓練を、3週間かけて週1回ずつ行う

練習の総量はどちらも同じで、配り方だけが違います。 測定した指標はどれもグループ間に統計的な差が出ませんでした。両群とも訓練前より上達し、4週間後の保持テストでも意味のある低下は見られませんでした。

ただし、1グループ10名という小規模な研究で、著者自身がこれを限界として挙げています。差が出なかったことは「差がない」ことの証明にはなりません。 対象も医師で、動機づけや前提知識が趣味の学習者とはかなり異なります。何より、医療手技であってピアノではありません(Bjerrum et al., 2016)。

ピアノに近い研究でも、方向がそろっていません

音楽以外の課題が中心の大規模分析

1999年発表の、63の研究・のべ約8,980人分をまとめた分析があります。対象は成人で、子どもや障害のある参加者を用いた研究は除外されています。収録研究の多くは1950〜70年代の実験室課題で、音楽の課題はほとんど含まれていません。

集中して練習する条件と、間隔をあけて練習する条件を比べたところ、全体では間隔をあけたほうが成績が良い傾向でした(効果量 d = 0.46。これは「46%良くなる」という意味ではなく、差の大きさを表す指標です)。

ここからが重要です。

  • 課題を4つのグループに分けると、単純な運動課題では差が大きく出た一方、複雑さが高い2つのグループでは統計的に意味のある差が出ませんでした。 これは「複雑な技能には効かないと証明された」という意味ではなく、この分析ではそこまでの差を検出できなかった、ということです
  • 間隔は長いほど良い、という結果ではありませんでした。 1分未満の間隔がいちばん効果が大きく、1日以上あけた条件がいちばん小さかったのです(効果量 d = 0.16)。それでも、1日以上あけた条件を含め、どの間隔条件も効果量はプラスの方向でした

ピアノの練習がこの4グループのどれに近いかは、この分析だけでは分かりません(Donovan & Radosevich, 1999)。

ピアノ未経験者100名中94名を対象にした実験

2017年発表の実験があります。カナダの大学で心理学の授業を受けている学生100名(うち94名はピアノを弾いたことがない完全な初心者)に、5分間の練習を2回してもらい、その間隔を0分・1分・5分・10分・15分の5条件(各条件20名)に分けました。課題は、楽譜を見ながら17音の系列を弾く運動的な課題と、楽譜なしで知っている曲のメロディを弾く記憶の課題です。

打鍵の正確さ・タイミングの安定性・打鍵の強さの安定性、いずれの指標でも統計的に意味のある差は出ませんでした。 楽譜なしで弾く記憶課題の正確さでも同様でした。著者らは「複雑な運動技能では、間隔をあける効果が常に現れるとは限らない」と結論づけています。

大事な注意点が2つあります。

  • 実験の間隔は最長でも15分、最終テストも5分後という短い設定でした。 著者ら自身が「忘れる余地がほとんどなかったせいかもしれない」と述べています。日をまたぐ練習配分は、この実験では扱われていません
  • 正確さの指標は統計的な有意水準のすぐ近く(p = .07)にあり、各条件20名という規模を踏まえると、検出力(本当にある差を見つけ出す力)が足りなかった可能性を排除できません

ピアノを専門としない音楽家29名を対象にした実験

2012年の研究では、ピアノを専門としない音楽家29名に、鍵盤で9音の並びを覚えて弾いてもらいました。練習を3回に分け、間隔を5分・6時間・24時間の3条件に分けたところ、2回目の練習で正確さが有意に向上したのは24時間あけた群だけだったという報告があります。著者は、睡眠を挟んだ記憶の定着が関係している可能性がある、と慎重な言い方で述べています。

ただし、速さについては別の結果が出ています。2回目の練習では、3条件すべてで速さの向上が見られました。ただし著者自身が、これは1回目の練習データの扱い方による可能性が高いと注意を添えています。 3回目の練習でのさらなる速さの向上は、6時間群と24時間群だけに見られました。正確さと速さで、間隔の効果が同じようには出ていないということです。

その他の注意点です。

  • 29名を3群に分けているため、単純計算で1群あたり約10名という小規模な実験です。群ごとの正確な内訳は明らかにされていません
  • 練習しない対照群がなく、6時間群と24時間群は経過時間そのものも違うため、「睡眠のおかげ」と言い切れる設計にはなっていません
  • この研究については要旨(アブストラクト)までしか確認できておらず、全文は有料のため読めていません。「こういう報告がある」ということまでしかお伝えできません。課題も9音の鍵盤の並びで、曲を通して弾く練習とは違います(Simmons, 2012)

※ここで紹介した4つの研究は、対象者・課題・実験期間がそれぞれ異なり、単純に比較できるものではありません。日本の学習者、子ども、長期間のレッスンにそのまま当てはまるかも検証されていません。

4本を並べると

  • 医療手技の研究(Bjerrum, 2016):総練習量を揃えて配り方だけを変えると、差は出なかった。ただしn=20と小規模
  • 音楽以外が中心の大規模分析(Donovan & Radosevich, 1999):全体では間隔をあけたほうが良い傾向だが、複雑な課題では差が小さく、間隔は長いほど良いわけでもない
  • ピアノ未経験者中心の実験(Wiseheart et al., 2017):短い間隔(15分以内)では差が出なかった
  • ピアノを専門としない音楽家の実験(Simmons, 2012):24時間あけた群だけ正確さが伸びた(小規模)

方向がそろっていません。研究者も対象も課題もそれぞれ違うので単純な比較はできませんが、「毎日じゃないと意味がない」と言い切れる根拠は、この4本のどれからも得られませんでした。

結局どうすればいいか

配分よりも、まず続けやすさを優先する

「毎日じゃないとダメ」と思い込んで自分を追い込む必要はありません。それを裏づける研究は見当たりませんでした。同時に「週末にまとめてのほうが良い」という根拠も見当たりません。研究がまだ答えを出していない、というのが正確なところです。

個人差を前提にする

上達の速さや、練習配分による感じ方には個人差があります。ここで紹介した内容がそのまま誰にでも当てはまるとは限りません。

まとめて練習するときは、手や手首に注意する

まとめて長時間練習する場合は、手や手首の使いすぎに気をつけてください。痛みや違和感が続くときは、練習を控えて整形外科などに相談することをおすすめします。

さいごに

ピアノの練習配分について、「毎日じゃないと意味がない」と言い切れるほど、研究の側もはっきりした答えを持っているわけではないようです。

平日に時間が取れずに悩んでいる方は、まず自分が続けやすい形を優先してみてください。

Moon²ではピアノのレッスンも行っています。練習の仕方に迷っている方は、体験レッスンでご相談ください。

体験レッスン(60分4,400円・税込)の申込みはこちら

参考文献

Bjerrum, A. S., Eika, B., Charles, P., & Hilberg, O. (2016). Distributed practice. The more the merrier? A randomised bronchoscopy simulation study. Medical Education Online, 21, 30517. https://doi.org/10.3402/meo.v21.30517

Donovan, J. J., & Radosevich, D. J. (1999). A meta-analytic review of the distribution of practice effect: Now you see it, now you don’t. Journal of Applied Psychology, 84(5), 795-805. https://doi.org/10.1037/0021-9010.84.5.795

Wiseheart, M., D’Souza, A. A., & Chae, J. (2017). Lack of spacing effects during piano learning. PLoS ONE, 12(8), e0182986. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0182986

Simmons, A. L. (2012). Distributed practice and procedural memory consolidation in musicians’ skill learning. Journal of Research in Music Education, 59(4), 357-368. https://doi.org/10.1177/0022429411424798

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事一覧